シェイクスピア物語メアリー&チャールズ・ラム兄弟の風変わりな関係

先々月のコラムの中で、「シェイクスピア物語」の著者、メアリー&チャールズ・ラム兄弟について書きましたが、この本は偉大なシェイクスピアの戯曲を、19世紀初頭の子どもや若者のために読みやすくして書かれたものです。ラム兄弟の文章スタイルが明快さと優美さを併せ持ってることは認めますが、シェイクスピアをいささか優しく簡単にし過ぎてるのではないか、とずっと私は文句をつけてきたのでした。

私が心配なのは、この物語を読んだ人々が原典を読む必要はないと思ってしまうかもしれないということです。私としては、まずシェイクスピアの原典を読んだあとで、このシェイクスピア物語を読むという順序をお薦めします。こうして読まれてこそ、ラム兄弟の功績は十分に評価されうるものと思っています。



と言いながら、実は私はラム兄弟のパーソナリティについて誤った見方をしていました。彼らはその著述と同様に単純で浅薄な性質だと思っていたのです。これは全くの偏見であって、19世紀の英国の文化的経緯についての私の知識は大きく抜け落ちたところがあったことを認めます。最近、私はイギリスにおけるロマン主義文学と芸術運動の源流について学んでいるのですが、チャールズ・ラムがこの分野のキーパーソンであったことを知りました。状況によっては姉のメアリーもそうであったことでしょう。チャールズはたくさんの本やエッセイを残しましたし、メアリーの著作は、最初の女性作家による文書となりました。

そんな二人ですが、彼らの人生には暗く陰鬱な側面があったのです。1796年9月のある夜、21歳のチャールズ(1775年2月10日ロンドン生まれ)は、家に帰ると恐ろしい光景を目にしました。10歳年上の姉のメアリー(1764年12月3日ロンドン生まれ)が母親を刺し殺し、父親をも負傷させていたのです。父親は生き延びて、血の海の中で叫び声を上げているところでした。この頃、メアリーは精神病の発作に悩まされており、この日は見習いに来ていた女の子を包丁を持って追いかけ回し始めたのでした。母親の叫び声にカッとなり、そして母親の心臓に包丁を突き刺してしまったのです。唯一の救いは、この女の子は無事だったということです。

メアリーは精神異常者と言い渡され、上の兄のジョンは、メアリーを精神病院に入れようとしましたが、メアリーを姉として愛していたチャールズは、彼女の世話を全て引き受け、生涯にわたって面倒をみることに献身しました。時にメアリーは精神病院で過ごさねばならない時もありましたが、だいたいは穏やかな状態で過ごし、弟チャールズの彼の作家としての仕事を助け支え続けたのです。チャールズは生涯独身を通したので、この兄弟は風変わりだけれども創造的なある種のパートナー的な関係性を築いていたと言えるかもしれません。彼らの周囲には友人やアーティスト、ジャーナリストや詩人などが集まり、その人々はみな、メアリーのことを好きで尊敬もしていた人々でした。チャールズとメアリーの家はロマン派詩人たちの集う場所でもあったのです。

シェイクスピア物語は二人の共著で、1807年に出版されました。以来、絶版となることなく刷られ続けています。けれども、この二人の最後は切ないもので、チャールズは1834年に亡くなり、メアリーはその後13年間生きましたが、弟の死後は、精神状態はひどく悪化してしまうこととなります。当時の精神病患者に対するクリニックの処遇といったらそれはヒドいものだったのです。

彼らの出生時刻は分からないので、アセンダントが分かりませんが、二人ともほぼ水のサインの天体がありません。このことは感情とうまく関われないという状況を引き起こしたに違いありません。チャールズのチャートには風(精神活動)の要素がたくさんあることから、彼は極めて知的な人物だったといえましょう。しかし、火が1つもないのです。メアリーの火の要素を太陽、月、水星と多く持っていたので、これはチャールズに勇気と情熱と人生の意味を与える支えとなったことでしょう。このように、二人はとても相性がよかったのです。

これまでの私の調べでは、メアリーの母親殺害についてはまともな研究を見たことがありませんでした。たいていのコメントは、単に起きたことを記述しただけのもので、無意識下の動機についての見解は避けて書かれていました。メアリーの月は牡羊座にあって、天王星と合を結んでいます。彼女の感情の爆発は劇的で予測できない唐突なものでした。彼女は子どもとして、たくさんのケアと理解を必要としていました。しかしながら、母親は長男にばかり献身し、メアリーには注意を向けなかったのだろうと思われます。チャールズが生まれることで、メアリーは下の弟を守り、育てることに夢中になり、彼女自身の抑圧した感情をさらに押さえ込むこととなってしまったのでしょう。それだけでなく、メアリーはお針子として母親を助けるために働かねばなりませんでした。この殺人はメアリーの激しい怒りの表現であり、牢獄に閉じ込められたごとくの感情からの解放であると、考えることもできましょう。

チャールズは14歳で学校を辞めていますが、これはどもりがあったため、ということもあるでしょうが、メアリーとの従属関係も影響していたのではないかと、私は思っています。これは、シャドウの投影が、ポジティブな方向に働いた場合の分かりやすい一例だと言えましょう。メアリーはチャールズの人生の中心軸となり、頼りにされ、最善の伴走者となりました。

心理学的な見解からはさらに意味を見出すことができます。メアリーはチャールズに内在する病理学的信念を、実際に無意識の内に演じていたのでしょう。メアリーが精神病を発病する前のことですが、チャールズ自身が重い鬱状態となり、精神病院で何週間かを過ごさねばならないということがありました。チャールズはいつでも憂うつな状態にあったにもかかわらず、姉の面倒をみるようになってからは、二度とクリニックに戻るようなことはありませんでした。こうしたことから、メアリーは家族に孕む精神の病いを全て引き受ける役回りとなったのかもしれず、これは無意識の約束であり、深遠でかつ複雑に表現された、愛の1つの形と言えるかもしれません。

驚くべきことに、彼らのことを描いた映画はなく、1938年に作られたとされているのですが、誰も観ていないのです。20世紀の間、チャールズ・ラムは人気作家としての地位を失っていましたが、今や学術的グループの間では研究され、承認されているのです。チャールズ・ラムはこれから冥王星回帰(彼の冥王星は山羊座)を迎えるので、彼とその作品は、新しい読者世代によって再び見出され、評価されていくことになると、私は確信しています。(終)

e0182773_10115416.gifCharles Lamb
Feb/10, 1775 in London

e0182773_10114550.gifMary Lamb
Dec/3, 1764, London

シェイクスピア物語 (新潮文庫)

チャールズ ラム / 新潮社


原文(英語)はコチラ
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by xavier_astro | 2014-07-02 00:00 | 文学  

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