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シンクロニシティ「デビルズ・ダブル〜ある影武者の物語〜」(2)

ところで、双子座や水星的な人というのはピーターパン症候群に陥りやすいと言えますが、ウダイは明らかに永遠の少年であり、それはアーキタイプの中で最も暗いがゆえに、彼は若くして悲劇的な死を遂げました。

イラク人のほとんどがウダイ・フセインのことを憎悪していました。彼は多くの人々を虐待し、拷問にかけ、レイプし、そして殺したと伝えられています。彼の責任能力のなさと乱暴な振る舞いによって、父親のサダム・フセインは弟のクサイの方を選んだため、ウダイは真の兄弟を欲するようになったのでしょう。彼に影武者が必要になった時、彼は以前のクラスメートで自分とそっくりだとみんなから言われていたラティフのことを思い出しました。ウダイはラティフを影武者として選び、完璧に似せるように手術を受けさせました。ウダイはラティフに何の権利も与えず、あたかも奴隷のように扱いました。それでもウダイは感情的な欲求から影武者の存在を必要とし、その存在から兄弟として受け入れられ、愛されることを要求したのだと映画は強く描いています。このことは、ウダイが父親像を受け容れられず、正しく認識できないことに起因しているでしょう。



誰もが想像に容易いように、サダム・フセインは恐ろしい自主性を損なわせるような父親像でした。物語によると、ウダイが数々の非行を犯す中、ウダイの病院での療養中に、ある時サダムは息子を身体的に立ち直れないようにさせようとまでしたのです。ウダイは、サダムの近臣である身近な友人の1人を公の場で殺してしまうのですが、フロイトの夢解釈では、ウダイ自身の父親像を殺したと解釈されます。また、ラティフには愛する父親がいて、その父親というのは息子のために自分の人生を捧げるような人物だったという事実は、ウダイにとてつもない妬みを抱かせたにちがいありません。結局、ラティフはイラクを逃れ、生き延びて、本を書き、結婚し、そして現在は英国で暮らしています。

1964年から1965年に生まれた世代は、土星(シャドウ)の真向かいに、冥王星ー天王星のコンジャンクションを持つ世代です。これは乱雑な謎めいた理解しにくいアスペクトです。乙女座にある天王星と冥王星の連携は、システム化され統一化された私たちの近代化社会において、急激な変容を仕掛けてきます。その一方で、魚座の土星はプロセスを先延ばし、遅れさせ、混乱させるようにしてきます。もちろん海王星との連携が、結局は、土星が混沌の世界から全体性と繋がりの世界に導こうとする助けとして働きます。それでも、このコンパッションという慈愛に至るまでの過程というのは、極めて痛みを伴うものです。ここに、冥王星と土星に象徴されるパワーの幻影(サダム・フセインの政権と息子の暴挙は全て消え失せました)を、私たちは見ることができるのです。石油やプルトニウムは、アメリカが高すぎる代償を払うこととなった戦争の、その目的でもありました。

さて、ここでリー・タマホリの話をしましょう。マオリ人(ニュージーランド先住民)の血を引くこの多才な映画監督は、双子座を描き出した極めて魅惑的な主題の「デビルズ・ダブル」を作ることに傾倒しました。リー・タマホリはこの物語の複雑さを引き込まれるように描き出しています。ラティフの自伝に記述されている多くの状況や出来事がいまだ裏付けされておらず、フセイン政権について、歴史的事実を客観的視するにはまだ早すぎるという状況を理解していたので、監督はこの物語を作り話的なニュアンスを帯びたギャング映画として作ることにしたのです。タマホリの太陽はウダイ、そしてラティフの太陽とコンジャンクションしていますが、これは双子座のアーキタイプの究極的な表現であることを肯定するものであり、この試みがうまくいかないはずがありませんでした。その一方でタマホリの月は蟹座なので、この話と登場人物の感情や家族関係の陰影を描くにあたっては、非常に神経質になりました。タマホリの乙女座の土星がウダイとラティフの魚座の土星とオポジションとなっていて、これは彼らの人生の意味深い物語を秩序立て構成するという、彼のある種の使命を表すものとなっています。

ドミニク・クーパーについては、多芸多才の若き俳優で、この映画における彼の演技は、互いを映し合う正反対の人物像をどう演じるかといういい典型となりました。BBCのインタビューでクーパーは、一方のキャラクターからもう一方へ、一つのシーンから別のシーンへ移る時、悪い男の役を演じる時はいつでも、善い男の役の時の感覚を残しておき、同様に善い男を役を演じている時、悪のウダイである感覚を失うことをしなかったと語っています。このテクニックが、それぞれの真逆のキャラクターを彼自身の心の中で統合させるように導いたのだと、私は思っています。このようにして、双子座の性質の統合失調症的な要素は克服されたということなのでしょう。

ドミニク・クーパーのチャートをみると、彼がラティフとウダイに共通の特徴を細部にわたり演じ分けねばならなかったことが分かります。木星と金星がコンジャンクションしていることから、彼はいわゆるプレイボーイだったに違いありません。獅子座で土星と火星がコンジャンクションしている上に、双子座の太陽には海王星がオポジションとなっていることからも、彼もまた、なんらかのアイデンティティの問題を抱えていたことでしょう。(彼の両親は離婚し、父親は遠い存在でした)にもかかわらず、徹底的に正反対の人物像を演ずることを選び、それを演じ切ったその独創性が、彼の精神を統合するためのヒーリングプロセスとして功を奏したと言えましょう。最近、彼は「リンカーン/秘密の書」という奇妙なハリウッド映画に出演していましたが、その中でドミニクは闇の生き物と戦う善良なヴァンパイアの役を演じていました。才能あるこの俳優は、どんな類いであれ、薬物などの嗜癖に陥らないでいる限りは、輝けるキャリアと素晴しい人生を送ることができるでしょう。

これら4人の双子座は、見事なシンクロニシティに巻き込まれていると言えましょう。それぞれ補完する正反対の像を持っているので、8つの人物像が存在することになります。もし私たちが、人間の性質の矛盾や二重性という極めて水星的な表現である、鏡のように映し出すというやり方を発展させ、多様化させられるとするならば、双子座であろうとなかろうと、私たちはあちらこちらで互いに互いを映し合っていると言えるでしょう。この4人はそれぞれ違ったエレメントの月を持っていました。(ウダイは風、ラティフは火、リー・タマホリは水、ドミニク・クーパーは土(彼は現実的かつ感覚的な方法で彼自身のキャラクターを具現化しています))4つのエレメントが結集することで、このアーキタイプ的な表現は、宇宙の真理を示す曼荼羅のごとくに完全なものとなっているのです。(終)

シンクロニシティ「デビルズ・ダブル〜ある影武者の物語〜」(2)_e0182773_0551318.gif ウダイ・フセイン

シンクロニシティ「デビルズ・ダブル〜ある影武者の物語〜」(2)_e0182773_056245.gif ラティフ・ヤヒア

シンクロニシティ「デビルズ・ダブル〜ある影武者の物語〜」(2)_e0182773_0561550.gifドミニク・クーパー

シンクロニシティ「デビルズ・ダブル〜ある影武者の物語〜」(2)_e0182773_056490.gif リー・タマホリ


デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-公式ウェブサイト

デビルズ・ダブル -ある影武者の物語- [DVD]

アミューズソフトエンタテインメント


cf)ラティフ・ヤヒアのインタビュー記事

映画「リンカーン/秘密の書」公式ウェブサイト

ヴァンパイアハンター・リンカーン

セス・グレアム=スミス / 新書館


原文(英語)はコチラ
シンクロニシティ「デビルズ・ダブル〜ある影武者の物語〜」(1)

by xavier_astro | 2012-11-16 00:00 | 心理  

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