ライフ・オブ・パイ〜自分自身のシャドウの飼いならし方(1)

文学と映画の関連を研究すること、これは私のこれまでの人生で常に頭から離れないことの一つです。偉大な小説を映画に脚色することは不可能なだとは分かっています。小説がフィクションである場合の主題をいかに創造的な方法で伝えるのか、が私がその作品(映画)に期待することです。完成作品をみては、たいていがっかりさせられるのが常です。しかしながら、アン・リー監督の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」を観た時、いつもと違うことが現実に起きました。原作よりもむしろ傑作なのではないかと思うほどに脚色が素晴しかったのです。



映画監督としてのアン・リー氏の創造性の及ぶ領域は計り知れないものがあります。アン・リー監督は、彼自身の裕福で多岐に渡る台湾人としての背景(中国の属国としての島)と日本の伝承の話とを、西洋の映画界における彼の確実な学術的な経験値に結びつけてこの作品を作りました。彼は偏執的で、厳格な監督だと言われていて、「いつか晴れた日に」で一緒に仕事をしたヒュー・グラントエマ・トンプソンが、リー監督のことをあまりに恐れるあまりに、「野獣」と呼んでいたほどでした。

リー監督作品は、非の打ちどころのない完璧な映画作りの工程を踏みます。映像、対話、演技が見事に融和してひとつの物語となるのです。この彼のバランス感覚は、彼の天秤座の太陽(1954年10月23日台湾屏東県生まれ、出生時刻不明)から、そして、完璧主義と作品細部への強迫観念的とも言えるそのこだわり方は、月が乙女座にあることから来ています。しかしながら、彼の映画には、コメディ作品も含め、ある種の暗さと陰鬱な空気があって、それは、蠍座で彼の土星と水星が重なっているところから来ているのでしょう。
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Ang Lee
born on Oct/23, 1954,
Pingtung, Taiwan,
unknown time

この台湾出身の監督は、中国の古典文学と書を学んだので、作品の登場人物の中に、無意識レベルの行動理由があることを深く理解することができるのです。複雑な小説(「ラスト、コーション」「いつか晴れた日に」「ボロークバック・マウンテン」「アイス・ストーム」)を脚色したリー監督の作品の奥義を知る鍵は、これらの小説が提示する人間の本質についての問いかけを緻密に繊細に理解しようとするところにあると、私は確信しています。リー監督は真の芸術家として、芸術は問いかけに対する答えとなることはなく、むしろ謎をもたらすものだということをよく理解しているのです。

ライフ・オブ・パイは、過酷な危険に満ちた環境を耐え抜き、自己の最大の敵とともに生き長らえるための修練、そして自我の消滅について描いた冒険物語です。カナダの作家ヤン・マーテル(1963年6月25日スペイン・サラマンカ生まれ、出生時刻不明)は、21世紀の人々を危惧する主題を描きました。(訳者註:「パイの物語」)確かなものはみな消えてしまうこの崩壊しつつある世の中を生き抜くにはどうしたらいいのでしょう?私たちがあたかも混乱の大海の中で、たった一人きり取り残され、さまようような今のこの時に、自らの信念を保ち続けるにはどうしたらいいのでしょう?苦難に立ち向かい闘うことの目的とは一体なんなのでしょうか?

主人公のパイ・パテルはインドの少年(訳者註:16歳)で、動物園を運営している父親はインドからカナダへ移住すると決めました。それで家族は動物園まるごと船に積み込み、航海に出たのですが、船は転覆してしまい、パイだけが海難を免れ生き延びたのです。パイはボートの中で無事かと思われましたが、予想だにしない同乗者がいました。シマウマ、オラウータン、ハイエナ、そしてベンガルトラです。いくつかの争いの後、パイとトラだけが生き残りました。少年パイはこの危険な肉食動物を追いやることができず、生き延びたいのならば、このトラに餌をやり面倒をみねばならないことを知るのです。こうしてこの冒険は227日間続くのでした。

自伝のように一人称で語られるこの物語は、三部で構成されています。第一部では、ピシン・パテルが自身の名前について、どうしてパイと名乗るようになったか語ります。第二部では、大自然、そして動物園の動物たちの習性に触れ、理解することによって生命について学んだことについて語られます。また、飽くなき宗教体験への尋ね求める道についても語られます。パイはヒンズー教徒として生まれましたが、キリスト教(カソリック)やイスラム教も信仰していたのです。船の難破、リチャード・パーカーという名のベンガルトラとの冒険については、第三部に長編として魅力的に書かれています。最後には、助けられたパイがメキシコ・アカプルコの病院で、彼の体験した冒険について、日本の船会社の社員たちに報告したエピローグ的な話で締めくくられています。

この小説の冒頭部分に不満を唱える人もいるようですが、それは話の展開がなく、宗教と動物の習性についての記述が長過ぎるからです。アン・リー監督は、これをドラマティックに脚色し、パイの人生の意味についての懸念、あまりに人間と違う動物の生き様についての感動的な真実を、見事に映像化しました。パイの宗教への求道心は、明らかにラーマクリシュナによって高められています。ラーマクリシュナはインドのグルであり、(ヒンズーだけでなくイスラム教、キリスト教についても教えを受け)複数の宗教を通じても神とコンタクトする神秘体験をしたとされます。

ヤン・マーテルは外交官の息子として生まれ、いくつもの外国で暮らしました。彼は幅広く豊かな文化の元で育ち、彼の小説は人生、命についてとても開かれた視野を持ち、異なる文化や人種について取り上げ、シリアスな論法と詩的なものを同時に持ち合わせています。蟹座のヤン・マーテルには、豊かな想像力があるので、彼の物語においては、家族にまつわるテーマというのがとても重要なのです。パイが家族を皆失い、何ヶ月もの間孤独で過ごした、という表現というのは、マーテルの獅子座の月が水瓶座の土星と真向かいにあることから来ています。パイが、個人として立てるようになるために、へその緒を切断されるような極めてドラマティックな方法で、家族への感情的な想いは、断ち切られねばならなかったのです。(続く)
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Yan Martel
born on Jun/25, 1963,
in Salamanca, Spain
time unknown


原文(英語)はコチラ
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by xavier_astro | 2013-05-02 00:00 | 映画  

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